500人以下アスリートセカンドキャリア支援エンタテインメント
引退後も見据えて。“自分の意志で選べる未来”をアスリートに──セガサミーの支援施策

Before:限られた人事リソースの中で、従来の人事制度や業務設計を前提とした支援では、アスリート社員一人ひとりのキャリアに向き合うことが難しかった。多くの選手が現役時代は競技に集中していたため、引退後のキャリアを考えることがなく、引退後に困惑してしまう状況が続いていた。
After:8thColorとの連携を通じて、アスリートの「Will=自分は何をしたいのか」を言語化する支援が可能に。本人の気づきを起点に業務設計やキャリア構築を個別最適で進められるようになった。アスリート社員が自らの意志で未来を選び取る文化が根づき始めている。
今回お話を伺ったセガサミーホールディングス(以下、セガサミー)は、ゲームなどのエンタテインメント事業を手掛ける株式会社セガと、パチンコ・パチスロの開発・販売などの遊技機事業を手掛けるサミー株式会社の持株会社。
彼らの競技生活だけでなく、その後のキャリアも見据えた独自の取り組みについて、人財開発本部 人財開発部 教育課の藤岡 卓也様と、現在はサミー株式会社コーポレート本部 人事部 キャリア開発GRであり、セガサミー野球部OBの富田 裕貴様にお話を伺いました。
アスリート社員のキャリアに向き合うセガサミーの課題意識
── 社員のキャリア開発について、どのような取り組みをしているのか聞かせてください。
藤岡様: セガサミーでは、グループ共通の教育体系「セガサミーカレッジ」を中心に、人財開発に力を入れてきました。人財開発本部が主導し、新入社員から経営層まで、階層別・専門分野別に必要なスキルを体系的に学べる研修制度が整備されています。

英語やロジカルコミュニケーション、プレゼンテーション、ITスキルなど多岐にわたり、社員は自らのキャリアに応じて必要なプログラムを選び、主体的に学べる環境を整えてきました。
── アスリート社員のキャリア開発についてはいかがでしたか?
藤岡様:正直、野球部を中心としたアスリート社員に対するキャリア支援については十分とは言えませんでした。もちろん、引退後のキャリアについて考えてこなかったわけではありません。弊社の里見会長の想いもあり、引退後もどこかの部署に席を用意して迎え入れてきました。
野球で培ったガッツや粘り強さといった強みを活かして、異動先で活躍されている方も多数いらっしゃいます。とはいえ、それだけでは本人のキャリアの可能性が限定されてしまいます。実際に野球部を引退して全く違う領域に入った富田が、そこに課題を感じていました。
── どのような課題を感じていたのですか?
富田様:引退してすぐ人事部との面談があり、「働きたい部署はありますか?」と聞かれたのですが、それまで野球しかしてこなかったため、働きたい部署がすぐに思い浮かばず、結局「求められるところで働きます」としか言えませんでした。
ビジネスの世界に入ってみて痛感するのは、ただ野球だけをやってきて、会社のことや社会で大事なことを何も考えてこなかったのは、本当に恥ずかしいことだったということです。現役の時から会社に対して興味を持ったり、隙間時間を見つけて野球以外のことを学んでおけばよかった、と今でも強く思っています。
現役アスリートの多様なキャリア観に寄り添うため、8thColorへ依頼
── 社内に充実した研修制度がある中で、アスリート社員のキャリア支援を、あえて外部に依頼することになった経緯を聞かせてください。
富田様: アスリート社員のキャリア支援をしようにも、社内にはそのような経験や知見を持つ人財がいなかったからです。一般採用の方には明確な採用基準があり、ビジネススキルもある程度揃っているため、集合研修などで効率的に教育が可能です。

しかし、野球部の場合はあくまで競技能力を基準に採用されているため、当然持っているビジネススキルやキャリアへの意識について個人差が大きく、従来の人財開発の手法が最適だとは思えませんでした。アスリート一人ひとりに、個別最適化されたアプローチが必要だと考えたのです。
── なぜ8thColorに依頼したのでしょうか。
富田様:外部パートナーを探している中で、当社の麻雀チーム『セガサミーフェニックス』のスポンサーでもある8thColor 代表の高木様を紹介いただき、依頼させていただきました。高木様は社会人野球という市場や場所にものすごく詳しく、並々ならぬ「愛」をお持ちです。
初めてお会いした際に、ぜひ野球部の支援をしてほしいと思わせてくれる方でしたし、我々が今回実現したいと思っていた方向性に強く共感していただけたのが大きかったです。
個別最適なキャリア支援を可能にした研修と1on1の設計
── 具体的な取り組みの内容について教えてください。
富田様: 現在行っているのは、主に全体向けの研修と選手個別の1on1面談の二本柱です。
最初に行ってもらったのが、キャリア形成の重要性や学ぶ意義についての集合研修です。なぜキャリアについて考える必要があるのか理解してもらった上で、選手個別の1on1面談を月に一度、全員と実施しています。
高木様には、選手それぞれの「なりたい姿」を深掘りしてもらっているのですが、最初から明確になっている選手はそう多くありません。それでも対話を重ねながら、少しづつ選手の希望を言語化し、明確にしてもらいました。
── まずは選手たちが目指すべきゴールを見つけていくのですね。
富田様: そうですね。「なりたい姿」が明確になったら、それを実現するために半年間でできることや、毎月どんなスキルを身につけていく必要があるのかを具体的に計画します。
1on1面談では、その計画に対する進捗確認や、必要な情報提供、アドバイスなどを実施いただいております。その進捗や課題感を我々人財開発部にも毎月フィードバックしてもらい、それをもとに、私たちも人財開発の計画を考えているところです。
── 選手たちには、初めての取り組みに対する戸惑いなどはなかったのでしょうか。
藤岡様:そもそも私たちが、部員たちから「野球に集中したい」といった反発があるのではと不安に感じていました。そこで、いきなり面談を始めるのではなく、事前にソーシャルスタイル診断や360度フィードバックを行い、選手の状況を丁寧に把握する準備期間を設けたのです。
高木様による「キャリアをテーマにしたグループワーク」も実施しました。初の試みで心配もありましたが、将来についてチーム内で話す貴重な機会となり、アンケート結果も好評でした。選手だけでなく、コーチやマネージャーにとっても、チームづくりや関わり方を考える良い機会になったと感じています。
自らの「Will」を見つけ、行動に移す力が育ち始めている
── 約半年間この取り組みを続けられて、選手の方々に何か変化は見られましたか?
富田様: 数値化された成果はこれからの部分も多いですが、取り組みを通して内面的な変化や学びの姿勢が確実に広がっています。高木様からのアドバイスを得ながら、自分の「やりたいこと」や「ありたい姿」が明確になり、それに向けて日々の隙間時間を活用して学んだり、情報収集をする姿が増えてきました。
藤岡様:全体研修後の選手の声からは、キャリアへの不安を抱えていた選手が想像以上に多かったこともわかりました。そうした不安に向き合い、チームメイト同士が将来について本音で話す機会にもなったのは大きな成果です。
── なぜそのような変化があったと思いますか?
富田様: 野球部員は「何かを考えてスタートし、言語化してアウトプットする」という機会が圧倒的に少ないんです。我々ビジネスパーソンは普段からそれが仕事ですが、彼らの主なアウトプットは野球のプレーという「結果」です。自分の考えや気持ちを言葉にして外部に発する、という経験がほとんどありません。
しかし、今回の取り組みを通して、自分の考えを言語化し、アクションプランに落とし込む練習ができています。これはチーム内のコミュニケーションにも良い影響を与えていると感じています。自分の考えを伝える力がつけば、より質の高いコミュニケーションが可能になりますから。
── 野球漬けだった彼らの中から、ビジネスにおける「Will」はスムーズに出てくるものなのでしょうか?
富田様:正直に言うと、まだまだスムーズに出てこない選手の方が多いです。ただ、「志」を持っている方が非常に多く、社会人野球のトップレベルで活躍してきた人間ですので粘り強さに対する自信や、強い向上心も感じます。
それがすぐに具体的な職種や役職に結びつくわけではありませんが、「将来こうなりたい」「セガサミーの中で活躍したい」といった漠然とした「Will」は持っています。高木様はそこから、「セガサミーの中で活躍したいって、具体的にどういうことだろう?」と深掘りしてくれるんです。
── 具体的には、どのように深掘りしていくのですか?
富田様:たとえば、「英語を使って働きたい」という選手がいれば、「英語を使うなら、セガサミーにどんな海外事業や外国語を使うアセットがあるか調べてみよう」と促します。「実はこんな事業があって、自分はこういうことで貢献できそうだ」という発見があれば、「その貢献をするために、今後何をするべきか」とさらに考えを広げていきます。
「野球部を長く存続させたい、持続的なチームにしたい」という「Will」を持つ選手に対しては、「お金の知識も必要だよね」と深掘りし、実際に経営や財務関連の基礎知識を学ぶことを勧めてくれました。彼らが元々もつ志を丁寧に言語化し、具体的な学びや行動に繋げてくれるんです。
一人ひとりの人生に伴走してくれる、信頼できるパートナー
──8thColorを、どんな企業におすすめしたいですか?
富田様:個別最適化された丁寧なキャリア支援を提供してくれるので、アスリート社員を抱えていて、選手の引退後のキャリアに不安を持つ企業様には特におすすめです。
また、高木様は社会人野球をはじめとするアスリートキャリアへの深い理解と情熱をお持ちです。野球や競技の話をきっかけに選手と積極的にコミュニケーションをとり、選手が自分のキャリアビジョンを明確に言語化できるようサポートしてくれます。高木様の人柄や熱意があったからこそ、選手たちも安心して心を開き、自らのキャリアを主体的に考えるようになったのだと思います。
藤岡様:社員としてのアスリートの価値や強みは、企業にとっても大きな財産です。彼らが競技活動終了後も、その強みを活かしてビジネスパーソンとして活躍できるようにすることが、企業にとってもアスリート社員本人にとっても幸せなことだと思います。
アスリート社員というリソースを最大限に活かしたいと思う企業様には、ぜひお勧めしたいですね。